農学博士 児玉不二雄のWeb講座 植物の病気の話

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更新日:2014.7.8(火)

第13話 ニンジン・ジャガイモの軟腐病(ナンプ・ビョウ)

 ペクチンという言葉をご存じでしょうか。ジャムに含まれています。あの独特の「粘り」の正体はペクチンなのです。
 さて、植物の方では病原体の8割以上がカビです。カビよりひと回り小さい微生物かバクテリア(=細菌)です。カビは1/100 mmのレベル、細菌は1/1000 mmのレベルです(第10話参照)。バクテリアが起こす病気をひとまとめにして細菌病といいます。
 細菌病の代表が軟腐病(ナンプ・ビョウ)です。英語名がsoft rotですから、英名から翻訳された病名に違いありません。softは「軟らか」、rotは「腐る、腐敗」を意味しますから。

《 病原細菌と病徴 》 
 病原細菌はPectobacterum carotovorum(ペクトバクテリウム・ カロトボーラム)。なにやら長い名前ですが、「ペクト」はペクチンを、「バクテリウム」はバクテリアを連想します。そして「カロト」はキャロットつまりニンジンです。この病原細菌は、ニンジンで初めて発見されました。もしかしたらこのバクテリアは、植物の細胞と細胞を接着(=貼り付け)しているペクチンに何か影響を与えているのでしょうか。
 病徴(病気の様子)がその疑問に答えてくれます。ニンジンの根が腐っています。細胞をつなぐ壁(細胞壁(=サイボウ・ヘキ)に含まれるペクチンが分解されて、細胞が壊れ、べとべとになっています(写真1)。次に、実験写真をご覧ください。輪切りのニンジン病原細菌を一滴落としておくと、一夜にして症状が進み、中心部から溶けていきます(写真2)。この細菌のもつペクチン分解能力はとても強いのです。


▲(1)ニンジンの根:真ん中あたりが腐っています。細胞が崩壊しています ▲(2)上段:病原細菌が付いていません。下段:病原細菌を一滴落としてあります。左:ハクサイ、中央:ニンジン、右:ダイコン
▲(1)ニンジンの根:真ん中あたりが腐っています。細胞が崩壊しています ▲(2)上段:病原細菌が付いていません。下段:病原細菌を一滴落としてあります。左:ハクサイ、中央:ニンジン、右:ダイコン

《 寄主範囲 》
 ジャガイモ(写真3、4、5)、タマネギ、メロン、ブロッコリーなど40種類以上の作物や花などがこのバクテリアに侵されます。どういうわけかコメとムギは、軟腐病にかかりません。

▲(3)ジャガイモ軟腐病:茎の症状(黒くなっています) ▲(4)ジャガイモ:罹病した茎の断面 ▲(5)ジャガイモ:罹病塊茎 (右側が変色して腐敗しています)
▲(3)ジャガイモ軟腐病:茎の症状(黒くなっています) ▲(4)ジャガイモ:罹病した茎の断面 ▲(5)ジャガイモ:罹病塊茎 (右側が変色して腐敗しています)

《 伝染経路 》
 病原細菌は、裸のままだったり、病気に罹って死んでしまった作物の根や塊茎(カイケイ:第4話参照)にしがみついたりして、ひっそりと土の中に住んでいます。好みの作物、つまりニンジンやジャガイモが植えられると、地下部分から直接に、あるいは地表面から雨水と一緒に作物の体に侵入して感染するのです。

今回のキーワード:細菌(=バクテリア)、ペクチン、病原細菌
写真提供:(一社)北海道植物防疫協会、著者原図