第1話 開講のことば
作物の病害虫についての本は、たくさん出ています。私もいくつか書いてきました。つくづく感じるのは、入り口の難しさです。この講座では、“思いっきりわかりやすく”を目標にしました。それでも難しいかもしれませんが、何とか頑張ってみてください。達成感はなかなのものです。
《 病徴 : びょうちょう 》
植物の病気の話を始めます。植物は体の不調を言葉で訴えることはできません。人間が外から見て、異常(状)に気づくのが、植物の病気の始まりです。その病気の姿を「病徴;ビョウチョウ」と言います。今回はその病徴について書きます。さてその病徴ですが、植物の病気を扱う学問分野(植物病理学といいます)の特殊用語のようです。例えば日本を代表する国語辞典の広辞苑にも見あたりません。じつはこの学問がわが国に輸入されたとき、symptomという英語にこの訳語が与えられたのです。日常語でいう「病状、症状」にあたります。英和辞典には、symptomに病徴の訳語を載せているものがあります。
《 様々の病徴 》
植物は葉・茎・根からできていますが、葉にでる症状では、「斑点」が目立ちます。病原菌がどこかから飛んできて、葉に取り付く(付着する)と、葉の内部に侵入します。ここで葉に生じる症状を「病斑;ビョウハン」と言います。病斑も普通の辞書には載っていませんから一種の業界用語(?)でしょう。作物の種類、病気の違いによって、様々な病斑が生まれます。
《 初期病斑 》
「病斑を見つけたらすぐに薬剤を散布しましょう」とよくいわれますが、病斑の出来はじめ(初期病斑)をお見せしましょう。トウモロコシの「すす紋病」です。この初期病斑は、病原菌を葉に吹き付けて、人工的に感染を起こし、発病させたものです。細長い斑点の周りが、黒っぽい緑色になっていることに注目してください。この状態を「水浸状;スイシンジョウ」といいます。葉の病斑を表現する大切な言葉です。実際の畑でよく見かける中~末期の病斑と比べてみてください。
▲トウモロコシの「すす紋病」初期病斑 |
▲中~末期の病斑 |