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植物の病気の話

第5話 タマネギの乾腐病(カンプ・ビョウ)

まず写真を見ていただきましょう。
 印で囲った部分に注目です。左が長ネギ、右がタマネギです。料理の時はどちらも切り取られて捨てられます。今回はこの部分が主役です(写真-(1))。 

▲(1)茎盤:ネギもタマネギ同じくらいの大きさです。

《 茎盤-ケイバン- 》

この部分を茎盤といいます。英語のstem plate(茎・皿)からの翻訳です。茎盤を含む食用部分を鱗茎(リンケイ)といいますが、これは一枚一枚の葉が、魚の鱗(ウロコ)のように重なっているからです。しかし本当の茎に当たるのは、茎盤だけです。茎盤と根の接着部から病原菌が侵入して起こる病気が乾腐病です。

《 様々な病徴 》

4月下旬に移植されたタマネギの苗が、50日ほどたった6月中旬には病気が出始めます。この時期に感染を受けたタマネギは、鱗茎の片側に病斑を拡大させるために、株全体が一方に曲がって倒れます。これが乾腐病の初期症状です(写真-(2)(3))。さらに真夏の頃になると、地上部の全ての葉が枯れてしまう症状が目立ち始めます。このようなものでは、根も消失しています(写真-(4))。この時期を何とか乗り切ったとしても、収穫時に現われる症状があります。農家の人が「尻腐れ」と呼んで恐れるこの病気の末期症状です。茎盤が壊れてボロボロになっています。乾腐病と言えばこの症状を指すといえます。

▲(2)初期病徴:下の葉が黄色く湾曲
 (ワンキョク:広辞苑にあるかな?)
 しているのに注目して下さい。

▲(3)初期病徴:茎盤の外側にもカビ(病原菌)の姿が見えます。

▲(4)左2株:健全株。右3株:病株。バックは筆者のシャツです。
 これが似合う(?)青年でした。

▲(5)末期症状:「尻腐れ」とはよく言ったものです。

▲(6)茎盤が崩壊しています。
 写真(1)と比べてみてください。

《 病原菌・伝染経路 》

Fusarium oxysporum f.sp. cepae(フザリウム・オキシソーラム・フォルマスペシャーリス・セペ)という長い名前を持つカビが病原菌です。f.sp の次の言葉は、フザリウム菌が取り付くことができる作物を暗示しています。セペはタマネギのことです。堅い膜で包まれた胞子(厚膜胞子)が長く土中で生き続け、伝染原となります。厚膜胞子は、「椰子の実」の姿に似た胞子ですが、このままの姿でなんと5年以上も土中生存できます(写真-(7))

▲(7)厚膜胞子:「コウマク」と読んでください。
 可憐な姿だと思うのは筆者だけでしょうか。

《 温暖化は乾腐病向き? 》

フザリウム菌は、高温が大好きで、28℃前後で活発に生育します。ですからタマネギが肥大する真夏に茎盤の中で盛んに繁殖するのです。そのうえ、暑さは土壌の水分不足を起こします。僅かな水分を精一杯吸収しても、その通路である茎盤(=タマネギにとっては大動脈です)に病原菌が侵入されては、タマネギも降参です。ですから高温の年は、この病気にとって要注意なのです。

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