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植物の病気の話

第7話 ダイズの苗立枯病

暑い夏です。すぐ近くの札幌・大通公園では、ビヤガーデンが大盛況です。ビールに欠かせないのが枝豆。今回はその枝豆、つまりダイズの話です。それにしても、ビール園を横目に、この原稿を書く筆者の姿は何やら哀しげです。

《出芽—シュツガ》

さて、どの作物でもそうですが、タネが芽を出すのを発芽といいます。土中で発芽した芽が地上に顔を出すと、「出芽」と言って区別します。少し見づらいかもしれませんが、ダイズ畑の写真です。「おや、芽が出ていないぞ」。これが苗立枯病に気付くきっかけです。

▲畑での症状;出芽していないものが多い。

《苗立枯病—病徴》

畑に播かれた種(タネ)は、さしずめ鳥が産み落とした卵と言ったところでしょうか。この卵を狙うのがピシウム菌です。タネが吸水する頃に菌も一緒に、タネの中に侵入して、感染が起こります。このため感染した種は、土中で腐ることが多いのです。苗立枯病は播種後、冷たい雨がしとしと続くと発生がひどくなります。ピシウム菌は水が大好きです。寒さは出芽を遅らせます。それに出芽の遅れた種は襲われやすいのです。孵化の遅れた卵が襲われやすいのと同じ理屈です。

▲発病苗:ほぼ健全;7 ,生育不良;7 ,枯死個体;5 ,未発芽・枯死;11 合計;30 個体

《アズキやエンドウマメも狙われる》

ピシウム菌に襲われるのはダイズだけではありません。アズキやエンドウマメも狙われるのです。症状もよく似ていますね。病原菌が微妙に違うことにご注意下さい。ピシウム菌のグループにもいくつかの種類があるのです。

作物名 病名 病原菌
ダイズ 苗立枯病 P.ultimum 1), P.spinosum 2)など
エンドウマメ 苗立枯病 P.ultimum P.irregulare 3)など
アズキ ピシウム苗立枯病 P.spinosumP.myriotyrum 4)など

先頭のP.はピシウム。以下順に;1)ウルティマム、2)スピノーサム、3)イレギュラーレ、4)ミリオティラム

▲エンドウ豆病徴

▲アズキ病徴

《病原菌のこと》

ピシウム菌は真っ白な綿毛状のカビで本当に可愛いらしいのです。(でも可愛いかどうかは主観の問題でしょう)。この菌には雄(オス)と雌(メス)があり、その子供が卵胞子(ラン・ホウシ)です。卵胞子の入っている袋が蔵卵器です。この表面にスベスベだったり棘(トゲ)があったりします。卵胞子はピシウム菌が土中で生き抜くための、必須の姿です。

P.ultimum; 蔵卵器の表面に棘がある。

P.ultimum:蔵卵器の表面が平滑。

▲ピシウム菌;左側の綿毛状のカビ。
 右側はコムギの病気をおこす病原菌です。

《防除法》

苗立枯病を防ぐには、種子消毒というとっておきの方法があります。種子に薬剤を塗ってタネを播くと、出芽がたいへん良くなります。種子表面に付いている薬剤が、病原菌の侵入を阻止しているのです。種子消毒は、卵の孵化を守る強い味方なのでした。クルーザーMAXX、キヒゲンR-2フロアブルを使うと高い防除効果があります。

▲種子処理による防除効果:上からクルーザーMAXX
 (メタラキシルM1.7%、フルジオキソニル1.12 %)
 原液 8mL/kg・種子塗抹、キヒゲンR-2フロアブル
 (チウラム40 %)原液 20mL/kg・種子塗抹、無処理

▲種子処理剤による防除効果:
 病原菌を土壌混和。
 上よりクルーザーMAXX、
 キヒゲンR-2フロアブル、無処理

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