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植物の病気の話

第18話 アズキの萎凋病(イチョウ・ビョウ)

 早いもので、もうこの一年が終わろうとしています。まもなく、お正月です。正月といえば餅。中に餡(あん)の入った餅は「あんころ餅」、私たち年配年代にとっては第一級のスイーツでしたが、現在はどうでしょうか。今回は餡の原料のアズキの話です。

《 発生状況 》

 この病気は、1983年頃から石狩、空知地方の水田転作のアズキ畑を中心に発生しました。激発地では畑の全面が枯死株ばかりとなります。現在までのところ道東の十勝、オホーツク地方では未発生です。アズキの主産地である十勝地方で発生が見られないのは不思議です。
 病気は一時、「立枯病」と呼ばれたことがありますが、これは本州(栃木県)で発生したものについての病名であり、記載に不明点も多いものでした。このため北海道での激発を機に、病徴・病原菌などが詳細に検討され、「萎凋病」の名称が与えられました。命名者は近藤(当時中央農試、現在・北海道大学大学院教授)と児玉です。

《 病徴 》

 北海道では、アズキが播種されてからほぼ1カ月を経た6月下旬から発病し始めます。葉に現れる水浸状の褐色病斑が初期病徴です。さらに葉が縮んだり、葉脈に壊疽が生じます。壊疽とは、細胞が死ぬための打ち身症状ができることです。このため葉の病害と見なされるおそれがあります。しかしアズキを静かに掘りとって、地際部から根にかけての部分をナイフで縦に切り開くと、中心部(髄)が根から茎へと赤褐色に変わっています。病勢が進むにつれて下方の葉がしおれ、落葉します。6月下旬~7月中旬に発病した株では、収穫皆無となるほか、8月以降の発病株でも大幅な収量低下をきたします。
 萎凋病は、よく似た病気に落葉病があります。しかし次の2点が判別のポイントになります。第一に、発病時期が6月下旬~7月上旬で、落葉病の8月上~中旬に比べて早いこと。第二に内部病徴として落葉病は主に茎の外層部(維管束)が紫褐色となるのに対し、萎凋病の場合は、中心部(髄部)がレンガ色に赤褐変します(写真①、②、③、④、⑤)。

▲①激発圃場:裸地となっているのはアズキが発病して枯死・消失したもの

▲②左:健全株、右:発病株で葉がしおれていることに注目。病名の由来

▲③茎の断面:中心部が

レンガ色に変色している

▲④アズキの体内に侵入した

病原菌

▲⑤土中に埋没したアズキの遺体(残渣:ザンサ)潜む厚壁胞子

《 伝染経路と発生環境 》

 病原菌は土壌中に生存して伝染源となります。病気にかかったアズキが枯死すると、その組織内(茎・根)に病原菌の厚膜胞子が多数形成されます。これを罹病残渣(リビョウ・ザンサ)といいます。萎凋病の伝染源です。また、発病株から採種した種子からは高率で病原菌が分離されますので、種子伝染する可能性が高いようです。感染はアズキの発芽後まもなく、根毛で起こります。連作は発病を助長します。高温・乾燥年には発病が顕著です。
 この病気に対して、抵抗性の品種が開発されています(写真⑥)。抵抗性の品種がつくられると、病原菌の方も進化して抵抗性の品種を侵す力を持った種類が現れます。この新しい病原菌の集団をレース(race)といいます。幸いなことに、現在広く使われている品種を侵すレースは出現していません。

▲⑥番号札13が萎凋病に弱い品種(罹病性品種)。14とその右隣が抵抗性品種

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