第28話 さまざまな灰色かび病 〜(2)イチゴの灰色かび病など
今回はイチゴの灰色かび病ついての話です。果実が侵され商品価値が著しく低下するこの病気は、イチゴ栽培における最大の障害といえます。北海道でイチゴが作られ始まった頃、つまり1900年代初めには、すでにこの病気が発生していたようです。
《 病徴 》
イチゴ栽培の全期間を通じて発生します。果実、花弁、葉、葉柄など地上部のあらゆるイチゴの部分を侵害します(写真①)。
果実では、はじめ打撲を受けたようなシミ(=水浸状斑点)が生じます。これは淡い小さな斑点となり、拡大して軟らかく腐敗します。腐敗部分には、灰色微粉状のカビがビッシリと付着します(写真②)。病変した部分は、乾燥してミイラ状になります。花弁(カベン:花びら)が侵されると黄褐色となり、果梗(=果実の付け根)や葉柄が侵されると、濃い褐色の長い病斑を生じます。病原菌の感染を受けて発病したのち、高い湿度が続くと病変部に灰色のカビを生じます。乾燥条件下ではカビは目立ちません。
▲①イチゴ灰色かび病:果実の症状 |
▲②イチゴ灰色かび病:果実の表面に多数の胞子(=分生子)が見える |
《 伝染経路など 》
病原菌の分生子と菌糸は、被害植物に残存するとともに、菌核の状態で生存し、越冬して伝染源となります。露地では収穫期が多雨の場合に、施設栽培では曇雨天が続きハウス内が多湿な時にまん延します。発病適温は20℃前後で、果実では、収穫時期になると特に発病しやすくなります。
《 防除のポイント 》
多肥、密植をしないこと。圃場の多湿を避けること。トンネル、ハウス栽培では換気を行うこと。下葉や枯れた部分を丁寧に除去・処分すること。開花前から薬剤の予防散布を行うこと。ただし、薬剤散布単独では充分に防除できないので、耕種的方法との組み合わせで総合的に実施する必要があります。
《 病原性と寄主範囲 》
ところで、病原菌がどんな植物を侵すのか、その植物をひとまとめにして「寄主(キシュ)範囲」または「宿主(シュクシュ)範囲」といいます。host rangeの訳語です。
灰色かび病が起こす病原菌すなわちBotrytis cinerea(ボトリチス・シネレア)の場合は、イチゴのほか、キュウリ、ナス、トマト、リンゴ、ブドウなど多くの野菜、果樹類などが寄主範囲です。その証明といっては大袈裟ですが、それぞれの植物の発病症状(=病徴)を眺めてください(写真③④⑤⑥)。どの植物も、葉や果実の部分が侵されています。病原菌が侵す植物が多いことを、その病原菌の「寄主範囲が広い」といいます。
▲③トマトの灰色かび病:葉の症状 |
▲④メロンの灰色かび病:葉の症状 |
▲⑤リンゴの灰色かび病:果実の症状 |
▲⑥ブドウの灰色かび病:果実の症状 |
《 病原菌の「かび」について 》
もうそろそろ「かび」と書くのをやめて、「糸状菌(シジョウキン)」と表記します。以前にも書いたと思いますが、これがカビの正式な名前なのです。大部分の糸状菌は、菌糸と胞子からできています。ごくまれですが、胞子を作らないものもいます。