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植物の病気の話

第31話 メロンの半身萎凋病(ハンシンイチョウ・ビョウ)

 のっけから私事で恐縮です。先日夜中、枕から頭が持ち上がらぬ程の高熱が出ました。翌朝、2人がかりの介助で近くのクリニックへ行き、診察を受けたところコロナでした。医師の話では、症状だけでは、インフルエンザとコロナとの判別は難しいとのことでした。
 それを聞き、メロンの半身萎凋病とつる割病(前回参照)のことを思い出しました。この2つの病気は症状がとても似ているのです。ここでお願いがあります。今回の記事を読まれる前に、前回の「メロンつる割病」の解説に目を通していただけると嬉しいです。 それでは、半身萎凋病の症状をみていきましょう。

《 新畑でも発病の恐れ 》

 この病気は、道内のメロン栽培地で広く発生していて、連作地では発生が目立ちます。病原菌の寄主範囲が広いので、初年畑でも激発する場合があり、注意が必要です。メロンが初めてでも、前作がトマトやナスなど寄主植物を栽培した跡地では、病原菌がすでに住み着いている恐れがあります。寄主植物・範囲については後述します。

《 病 徴 》

 苗での発病はほとんど見られません。苗を本畑に移植してからの発病は、果実の肥大が始まる頃に目立ち始めます。初期症状の特徴は茎葉の生気がなくなることです。日中になって温度が急上昇すると、葉や茎が急速にしおれます。この「しおれ」は、植物の病気研究の分野では、「萎凋(イチョウ)」と呼びます。夕方から夜間になり気温が下がると、メロン全体に生気がよみがえってきます。
 この「萎凋」と「回復」を繰り返しながら症状が進行してゆきます。葉のしおれは、下から上へと進行します。下葉をよく観察すると、健全なものに比べやや黄化しているのがわかります。しかし、つる割病のように顕著に症状(葉枯症状:前回参照)を示すことは少なく、全体にしおれます。その後、茎葉は回復不能となりメロンは衰弱枯死します(第写真①、②)。養分・水分の通路である茎の維管束(イカンソク)を通って病原菌が果実に達すると、その内部が腐ってしまいます(写真③、④)。

▲①メロン・全身萎凋:果実の実り始めの時期(原図:堀田治邦氏)

▲②メロン・全身萎凋:枯死部分が見られる(原図:田村修氏)

▲③メロン・果実内部の腐敗(原図:堀田治邦氏)

▲④メロン・病原菌が種子に付着(保菌種子)(原図:堀田治邦氏)

 茎を横断すると、維管束が褐変しているのがわかります。2本立ての蔓(ツル:茎)の片方で症状が急速に進行すると、この病気の名前の通り半身萎凋症状となるのです。しかし、株全体に萎凋が現れる場合もしばしばあり、病徴だけで萎凋かつる割病かを判別するのは難しいのです。
 最終的判断は、維管束の褐変した組織(病斑部)を切り取り、培養して病原菌を確かめるほかありません。これには数日を要します。コロナやインフルのように、鼻の中に綿棒を差し込んで、検査キットで判別する方法は残念ながらありません。

《 さまざまな植物を侵す病原菌 》

 病原菌は、Verticillium dahliae(バーティシリウム・ダーリエ)というカビです。つる割病の病原菌はメロンだけしか侵しません。つまり寄主範囲が狭いのですが(前回参照)、半身萎凋病の病原菌は寄主範囲がとても広いのです。メロンのほかに、スイカ、キュウリ、ナス、オクラ、イチゴなど40品種以上もあります(写真⑤、⑥、⑦)。そのほとんどの病名は半身萎凋病です。まれに病名の違うものもあります。

▲⑤ナスの半身萎凋病:左半分の葉が萎れている(原図:田村修氏)

▲⑥トマトの半身萎凋病:末期症状(原図:田村修氏)

▲⑦キュウリの半身萎凋病:末期症状(原図:田村修氏)

《 伝染経路と発生環境 》

 病気に罹って枯死してしまったメロンの体内(罹病残渣:リビョウザンサ)では、病原菌の微小菌核(ビショウキンカク)が無数に作られます。ほぼ球形で表面がでこぼこしており、約20~100μm(1/10mm)くらいの大きさです。この茶色~黒色の頑丈なかびの塊(カタマリ)は、土壌中で4~14年も生存します。そして好みの作物、つまり寄主植物の根からの分泌物に反応して発芽し、メロンに感染して発病させます。
 育苗中の苗が感染すると、無症状の「感染苗」として本畑に持ち込まれ、本畑での大発生の原因となります。種子伝染もするといわれています。

《 防除法 》

 輪作は有効な防除手段なのですが、メロン⇒トマトなどのように寄主植物を輪作に入れることは不可、更に苗床消毒の前作を確かめる事が重要です。ナス、トマトなど(寄主植物です!)を栽培した後のハウスでの育苗も避けましょう。施設栽培では苗床・本畑ともに太陽熱や薬剤による土壌消毒が有効です。

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