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植物の病気の話

第8話 ジャガイモ疫病(エキビョウ)

19世紀中頃のことです。バレイショを主食とするアイルランドで疫病が発生し、全国的な大飢饉となりました。このため160万人がアメリカに移民しました。この中にはケネディ大統領の祖父もいたのです。疫病にまつわる有名な逸話です。

<病 徴>

地上部では主に葉に症状が出ます。その時期はバレイショの花が咲く頃です。はじめ葉の表面に水浸状に褐点ができ、次第に拡大してほぼ円形の暗緑色の病斑となります。葉の裏側には白い粉状のカビがびっしり生えています。これは病原菌の胞子(分生子;ぶんせいし)です。

▲進展病斑;疫病の蔓延が予測されます。

▲葉の裏側の症状;白い粉は分生子です。

 

成熟した茎に発病することとはほとんどありませんが、生育初期の茎で発病することがあります。この場合、褐色の病斑に取り巻かれた茎は折れやすくなります。激しく発病がまん延すると、畑全体が枯れあがることあります。
バレイショの食用部分は「塊茎(かいけい)」です。その塊茎でも発病します。表面に黒みを帯びた凹みを生じ、内部はレンガ色~褐色になっています。特に「塊茎腐敗」と名付けられています。疫病菌のあとに別のカビや細菌が入り悪臭を放ちます。

▲葉にたくさんの病斑ができています。

▲激しく発病すると枯れ込んでしまいます。

▲茎にも病斑ができることがあります。

▲塊茎腐敗;疫病で腐ったイモです。

<伝染経路>

この病気の第一次伝染源は種いもです。保菌している種いもを植え付けると、およそ50日後には地際部に分生子がつくられ、上の方の葉に感染して病斑をつくります。
この大量の分生子こそ、まん延の主役です。分生子はその子供の遊走子(ゆうそうし)を生んで、葉の中に侵入し発病させます。一部の遊走子は雨水と一緒に土中に染みこみ、塊茎の芽のところから侵入して「塊茎腐敗」を起こすことになります。

<発生環境>

もともと水を好むのがこの病原菌の特徴です。低温と高い湿度は分生子をたくさんつくらせ、葉への遊走子の侵入を助けます。また気温が17℃以下で、遊走子を土の中に送り込むための多量の降雨が続くと、塊茎腐敗が多発します。

<病原菌と病名>

Phytophthora infestans(フィトフトーラ・インフェスタンス)が病原菌です。植物の方では、Phytophthora菌が起こす病気に「疫病」という名前がつきます。ナス、カボチャ、リンゴ、イチゴなどたくさんの作物が疫病に罹ります。

▲分生子;先端の膨らみを乳頭突起といい、長径が約0.033mm.のレモン状の袋です。
 袋の中の無数の遊走子(ユウソウシ)が水中を泳ぎます。感染を広げます。

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